妊婦が梅毒に感染した場合と先天梅毒について

目次

近年、国内で梅毒感染が急増しており、特に問題として指摘されているのが、妊婦の感染とそこから生じる「先天梅毒」です。
妊娠中の梅毒は、症状が軽度であったり、妊娠による体調変化と見分けが難しいことから、感染に気づかないまま時間が経ってしまうことがあります。
しかし、母体が感染したままだと胎盤を通して胎児に感染する可能性があり、場合によっては命に関わる影響も出ることがあります。

先天性梅毒は早期発見で治せます

このページでは、妊婦の梅毒感染がなぜ危険なのか、赤ちゃんにはどんな影響が出るのか、治療はどのようにするのか、母子感染を防ぐためには何をすべきなのかを、わかりやすく丁寧にまとめています。

1|妊婦の梅毒感染が“特別に危険”と言われる理由

梅毒は、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)という細菌が原因で起こる感染症です。
妊娠していないときであれば、早期に治療すれば大きな後遺症が残ることはほとんどありません。しかし妊娠中は状況が大きく異なります。

梅毒は胎盤を経由し、まだ免疫機能が十分でない胎児へと感染することがあります。感染の可能性は妊娠初期〜後期のどの時期でもゼロにはならず、特に母体の梅毒が活動性の高い時期は感染が起こりやすくなります。

また、妊娠中は症状が出ても妊娠に起因するものだと考えてしまいがちなため、梅毒だとは思わず、「気づいたら進行していた」というケースが少なくありません。この“気づきにくさ”こそが、先天梅毒の増加につながる大きな要因です。

気づかない

2|妊娠中に見逃されやすい梅毒のサイン

梅毒の症状は段階によって変化し、また妊娠中の体調変化とも似ている部分があるため、見落とされることがあります。

1期(概ね感染後3週間〜3か月)

性器や肛門、口の中に、痛みのないしこりや浅い潰瘍ができることがあります。
しかし痛みがないことが多いため、多くの方が「できものかな?」と思う程度で放置してしまいます。また口にできた場合は口内炎と誤解されることもあります。

潰瘍

2期(概ね感染後3か月〜3年)

この時期には全身に発疹が出ることが特徴です。
特に手のひらや足の裏に赤い発疹が出るのは梅毒の代表的な症状のひとつですが、「妊娠中の肌トラブル」「乾燥によるもの」と勘違いしてしまう方も珍しくありません。

また、微熱、倦怠感、頭痛、脱毛などの症状が出ることもありますが、妊娠中の体調変化と重なるため、梅毒が原因だと気づかず放置されてしまうことが多いのも問題です。

発疹症状

無症状期(潜伏梅毒)

梅毒の症状は時間の経過とともに消えてしまうことがあります。ただし、この場合でも症状が消えているだけで、体内では感染した病気が着実に進行し続けています。この時期でも胎児への感染は起こるため、症状がない=安全というわけではありません。

症状消失しても治ったわけではありません

3|先天梅毒とは? 胎児・新生児に起こり得る影響を理解する

先天梅毒とは、妊娠中の母親が梅毒に感染していることで胎児も感染し、出生前・出生後に様々な症状を引き起こす状態です。
感染の時期によって症状が異なるため、以下のように整理すると理解しやすくなります。

胎児期に起こり得る影響(出生前)

下記は、胎内で感染した場合に起こる代表的な影響とそれぞれの特徴です。

胎児への影響

内容・説明

流産

妊娠早期の感染でリスクが上昇します。

死産

症状が強い場合や治療されなかった場合に起こり得ます。

早産

胎児の発育が妨げられることで生じやすくなります。

胎児発育不全

胎児が十分に育たない状態となります。

胎盤肥厚

胎盤が過剰に厚くなり、胎児の発育を阻害することがあります。

胎児水腫

胎児の全身がむくむ重篤な状態になることがあります。

これらは母体が無症状でも起こる可能性があります。妊娠中に必ず検査が行われる理由はこのためです。

早期先天梅毒(出生直後に現れる症状)

早期先天梅毒は、生後数週間以内に症状が現れることが多く、以下のようなサインに注意が必要です。

症状

説明

鼻づまり・鼻汁

「梅毒性鼻炎」(または、スナッフルズ)とも呼ばれます。生後まもなくから、粘り気のある鼻水や血が混じった鼻汁がたくさん出ることがあります。
この鼻水は通常の風邪とは違い、しつこく続き、かさぶたがついたり、呼吸しづらくなって授乳がうまくいかないこともあります。

発疹

手のひらや足の裏を含む全身に発疹が出ることがあります。
成人の梅毒と同じく、かゆみが出ないのが特徴で、赤ちゃん自身が訴えられないため、気づくのが遅くなることがあります。
皮膚がめくれるような状態(落屑)が見られる場合もあります。

肝臓・脾臓の腫れ

お腹の中の肝臓や脾臓が大きくなることで、「お腹が張っている」「ふくらんで見える」などの変化がみられることがあります。
血液検査で肝機能の異常が見つかることもあります。

黄疸

皮膚や白目が黄色く見える黄疸が出ることがあります。
通常の新生児黄疸よりも長く続いたり強く現れる場合は注意が必要です。

貧血

貧血が起こると、顔色が悪い・元気がない・授乳量が減るといったサインがみられることがあります。
重い場合は治療が必要になることもあります。

骨の炎症

手足の骨に炎症が起こり、痛みで手足を動かさなくなる(泣いてばかりで動かさない)といった様子がみられることがあります。
これは「Parrotの偽麻痺」と呼ばれ、特徴的な症状です。

体のむくみ

重いケースでは、全身がむくむ「浮腫(ふしゅ)」が見られることがあります。
妊娠中のエコーで胎児がむくんで見える(胎児水腫)場合にも、梅毒が原因のことがあります。

晩期先天梅毒(成長後に出る症状)

治療が適切に行われなかった場合、数年〜十数年後に以下のような症状が出る可能性があります。

症状

説明

歯の特徴的な変化

「前歯の形が特徴的に変わったり(ハッチンソン歯)、奥歯の表面にくぼみができるなど、歯の発育に異常が現れることがあります。

骨や関節の変形

長い年月をかけて炎症が進み、脛骨(すねの骨)が前に反って見えるなど、骨の形が変わってしまうことがあります。

目のトラブル(角膜炎)

角膜に炎症が起こり、光がまぶしい・涙が出る・視力が低下するなどの症状がみられることがあります。
放置すると視力に影響する場合があります。

黄疸

皮膚や白目が黄色く見える黄疸が出ることがあります。
通常の新生児黄疸よりも長く続いたり強く現れる場合は注意が必要です。

聴力の低下

耳の神経が障害されることで、難聴が現れることがあります。

皮膚や粘膜の症状

皮膚や口の中に、ゴムのように硬いしこり(ゴム腫)ができることがあり、破れると傷になってしまうことがあります。

先天梅毒の最大の問題点は、“出生時に症状がないことも多い”という点です。出生後すぐに症状がなくても、実際には胎児期に感染しているケースがあります。

4|妊婦の梅毒治療は胎児に安全?

妊娠中に梅毒と診断されると、「治療して赤ちゃんに影響はないの?」と不安に思う方が多くいます。
しかし、梅毒の治療薬(ペニシリン)は、妊婦さんにも赤ちゃんにも安全に使えることが確立されている薬です。

ペニシリンは、妊娠中に使用しても胎児に悪影響を与えず、赤ちゃんへの感染を高い確率で防げることが世界中の研究・臨床データで明らかになっています。
そのため、妊婦の梅毒治療薬として国際的に推奨されています。

妊娠中に早期の治療を行うことで、赤ちゃんへの感染をほぼ防止し、先天梅毒の発症リスクを大幅に低下させることができます。
治療を受けることのメリットは非常に大きく、治療をしないことのほうが胎児への影響が深刻になります。

早期治療で赤ちゃんへの感染を防ぐ

5|妊娠中に梅毒が疑われる場面とは?

梅毒を疑う場面は実は多く、「自分は大丈夫」と軽く考えてしまうことが最も危険です。

以下のような状況に心当たりがあれば、妊娠中でも早めに医療機関での相談や検査を検討してください。

⚫︎過去のパートナーとの性行為が気になる
⚫︎パートナーの健康状態が不明
⚫︎以前梅毒に感染した経験があり、再感染の可能性がある
⚫︎手のひら・足の裏の発疹が続く
⚫︎性器や口の中にしこりやできものがある
⚫︎妊娠中にパートナーの浮気や風俗利用が疑われた
⚫︎マッチングアプリでの交際歴がある

妊娠中は免疫バランスが変わり、感染しやすい時期でもあります。少しでも不安があれば検査を受けることが最善です。

 

6|妊婦が受けるべき梅毒検査のタイミング

妊娠中の梅毒検査は、赤ちゃんを先天梅毒から守るために欠かせない大切な検査です。
ここでは、日本の妊婦健診で梅毒検査が行われるタイミングについて、初回健診の時期も含めて分かりやすくご紹介します。

日本では、梅毒検査は初回の妊婦健診で全国共通で行われます。
多くの方が妊娠4〜12週ごろに初回健診を受けており、このタイミングで母子手帳が交付され、各種の妊娠初期検査が行われます。その中の1つとして「梅毒検査(TP抗体・RPRなど)」が含まれており、妊娠初期に感染の有無を確認することで、必要な場合は早期に治療し、赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。

妊娠後期にも再検査が行われることがあります。
近年、日本では梅毒の感染者が増えていることから、先天梅毒を予防するため、妊娠後期(妊娠28〜36週ごろ)にもう一度検査を行う自治体・医療機関が増えています。「妊娠初期は陰性でも妊娠中に新たに感染するケースがある」・「出産直前の感染に気づかないと胎児への影響が大きい」、こうした理由から追加検査が推奨されるケースが増えています。ただし、妊娠後期の再検査は自治体や通っている医療機関によって実施の有無が異なるため、健診先で確認することが大切です。

梅毒検査のタイミング

しかし、感染リスクがある場合はこの2回の検査でも不十分なことがあります。
妊娠中に性生活があった場合、パートナーの感染が疑われる場合、症状が出た場合には、追加検査が必要になります。特に妊娠後期や出産直前の感染は、母子感染率が非常に高いことが知られているため、迷ったら追加検査を受ける方が安心です。

7|先天梅毒を防ぐために必要なパートナーへの対応

ご自身が治療を受けても、パートナーが感染したままであれば、再感染が起こり、結果として胎児への感染リスクも再び発生する可能性があります。

梅毒はパートナーの治療も同時に行われなければ、何度でも感染する可能性があります。妊娠中・出産後の大切な時期に、同じ不安を繰り返さないためにも、必ずパートナーと一緒に検査・治療を進めることが重要となります。

パートナーと一緒に検査と治療を

8|先天梅毒を防ぐために妊婦ができること

梅毒が妊婦と赤ちゃんに与える影響は深刻ですが、正しい行動を取ることで、先天梅毒は十分に防ぐことができます。

まずは検査を受けることです。そして、パートナーと一緒に状況を確認し、必要であれば適切な治療を受けることです。不安なことや心配な症状があれば、早めに医療機関に相談することが最も確実な対策です。

9|あおぞらクリニックでの梅毒検査

あおぞらクリニックでは、妊婦の方・パートナーの双方が安心して受診できる体制を整えています。

⚫︎予約不要での検査が可能
⚫︎即日検査・即日結果(最短の場合)
⚫︎パートナーと同時検査が可能
⚫︎プライバシーに配慮した環境

※ただし、当院では妊娠中の方の治療につきましては、行なっておりません。万が一のことを考え、かかりつけの婦人科医にご相談頂いております。

梅毒は早期発見・早期治療で赤ちゃんを守ることができます。

10|まとめ:妊婦の梅毒は“早期に気づく”ことが何より大切

妊娠中の梅毒は、母体が無症状でも胎児へ重大な影響を与える感染症です。しかし、早期に検査を行い、適切に治療を受ければ、赤ちゃんを先天梅毒から守ることができます。

⚫︎妊婦の梅毒は気づかれにくい
⚫︎胎児への感染は妊娠時期に関係なく起こる
⚫︎治療により母子感染率を大幅に下げられる
⚫︎パートナーの検査・治療が不可欠
⚫︎不安があれば健診以外のタイミングでも検査を

赤ちゃんの未来を守るために、少しでも心配がある妊婦さんは、どうか早めにご相談ください。

赤ちゃんの未来を守
 

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