梅毒の疫学

梅毒とは

梅毒とは、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ・パリダム (Treponema pallidum) によって発生する感染症です。

日本では1948年に性病予防法が制定され、全数報告を求める梅毒患者届出が開始されました。1999年4月からは、梅毒は感染症法により全数把握対象の5類感染症に定められており,診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられています。

スピロヘータとは、らせん状の形態をしたグラム陰性の真正細菌の一種です。学名の由来は「コイル状の髪」を意味するギリシア語をラテン語に音写したものだとされています。

細菌学的な特徴

細菌学的な特徴としては0.1 – 0.3×5 – 250 µm程度の右巻きまたは左巻きの規則正しいらせん状で、菌体の両端付近に 20本程度ずつの鞭毛を持ちます。

他の細菌とは異なり、菌体の最外側にエンベロープと呼ばれる被膜構造を持ち、それが細胞体と鞭毛を覆っています。

細胞壁が薄くて比較的柔軟であり、鞭毛の働きによって菌体をくねらせた、コルク抜きのように回転しながら活発に運動する特徴を持ちます。

自然環境のいたるところに見られる常在菌の一種ですが、一部のスピロヘータは人に対して病原性を持つものがあり、梅毒の他に回帰熱、ライム病などがあります。

梅毒トレポネーマ

梅毒トレポネーマは、低酸素状態でしか生存できません。また、低温や乾燥にも非常に弱いという性質があります。

梅毒の感染経路

感染経路は、主に染している部位が皮膚や粘膜と直接接触することで感染します。具体的には、膣性交やアナルセックス(肛門性交)、オーラルセックスが主な感染経路です。

キスでも感染することがあります。

感染後3〜6週間程度の潜伏期を経て、時間とともに様々な症状が現れます。梅毒に感染後、一時的に症状が消失する時期があります。また、はじめから症状が出ない方もいます。(無症候性梅毒

そのため、医療機関を受診しない方が多く、治療の遅れに繋がと懸念されています。

梅毒は、世界中に広く分布している疾患です

ペニシリンによる治療に成功して以来、発生は激減しましたが、その後、各国で幾度かの再流行がみられています。

『日本性感染症学会』が定めた治療ガイドラインには『梅毒の治療には、薬剤耐性の報告が現在までで認められていない、ペニシリンを第一選択薬にすべきである。』と、明記されています。

日本をはじめ、世界各国でも梅毒の治療にペニシリン製剤が使用されています。

梅毒の患者発生動向

患者発生動向としては、1948年以降、患者報告数は減少傾向にありますが、1967年・1972年・1987年・1999年・2008年に原因は特定されていませんが、患者数は増加し、少流行しました。

そして、2014年以降から2017年までは、男女を問わず患者数は増加し続けています。2017年の感染症発生動向調査によると、全国で5770人、都内だけで1788人の梅毒発生が報告されています。

最新の梅毒の発生動向

最新の梅毒の発生動向として注目すべきは、感染者の年齢と性別です。

2005年から2013年までの動向調査上、梅毒感染者の約80%程度は男性が占めており、男性感染者の多くが同性間性行為による感染であることが明らかにされています。

梅毒とHIVが重複感染している確率が高い

また、特徴的な傾向としては、HIVとの重複感染率が上昇傾向にあることです。

そのため、男性同性愛者(MSM)に対して積極的なHIVと梅毒のスクリーニング検査が推奨されていました。

しかし現在、梅毒の発生状況は以前とは大きく異なります。2016年度の発生状況では、感染者の30~40%程度は女性です。また、20~30代の若い方が多く感染している傾向にあります。

梅毒の感染拡大はMSM間での感染に留まらず、別の理由が原因となって、国内において感染が拡大していることが考えられます。

その原因は明らかになってはいませんが、日本の隣国である、中国や台湾などで、日本以上にも梅毒が大流行していることや、海外からの旅行者が年々増えていることが一つの要因になっている可能性もあります。

中国国家衛生・計画出産委員会が作成し、東京大学医科学研究所・アジア感染症研究拠点がホームページで公開している「2015年全国法定伝染病流行状況」によれば、中国の梅毒感染者数は2015年で43万3974人、そのうち死亡症例数は58人という統計データがあります。

また、2016年度の中国人の日本旅行者数は、600万人以上になります。

中国の総人口は日本の約11倍ですが、梅毒患者は日本の約100倍も感染者が確認されています。

また、中国の場合、日本とは異なり、地域により生活格差や医療格差が著明にあることを前提に考えると、潜在的な感染者も含めて、中国の国内や隣国も含めて今後も驚異的な感染拡大が懸念されます。

また、特に注意しなくてはならないことは、梅毒とHIVが重複感染している確率が高いことを考えると、MSMの方に留まらず、国民全ての方にとってHIV感染の脅威が潜在的ではありますが、確実に拡大している傾向にあることです。