HIVは無症候期においても活発に増殖

HIVは無症候期においても活発に増殖し、CD4陽性Tリンパ球をはじめとする免疫系を破壊し続けています。HIV療法によりHIVの増殖を十分に抑制すると、胸腺から新たにナイーブTリンパ球が供給されCD4数が増加し、日和見感染症の減少およびAIDSによる死亡者数の減少につながるとされています。

ナイーブTリンパ球とは、胸腺で分化成熟してから病原体やがん細胞と一度も遭遇したことのない、未熟なTリンパ球のことを言います。

20183月の時点で、日本には24種類の抗HIV治療薬があります

通常、これらの抗HIV薬を34種類組み合わせて併用する抗レトロウイスル療法(ART)が治療の基準となっています。

現在用いられている抗HIV薬は、HIVの増殖サイクルを阻害する薬剤であり、その効果判定は血中HIV RNA量を測定することにより行われています。一方、HIVの増殖阻害によってどの程度免疫力が回復したかは、CD4数が指標となります。

現在標準的に行われる抗レトロウイルス療法(ART)は、強力にHIVの増殖を抑制し感染者の免疫能を回復させることが出来ます。その結果、HIV感染者の生命予後は著しく改善されましたが、ARTをもってしてもHIVを感染者の体内から駆逐することは容易ではありません。その主な理由は、HIVの一部がメモリーTリンパ球と呼ばれる寿命の長い細胞に潜伏感染しているからです。

メモリーTリンパ球とは、活性化された細胞障害性T細胞の一部で、病原体やがん細胞などの敵に対して攻撃性を持ったまま記憶され、次に同じ敵が出現したときに再び攻撃をしかけるような機能を持つリンパ球のことをいいます。

HIVの駆逐のためには

HIVの駆逐のためにはこの感染細胞が消滅するまでARTを継続する必要があり、そのために要する期間は平均73.4年と推定されています。このことは、ARTを開始したHIV感染者は事実上、生涯治療を継続する必要があることを意味します。正しい用法・用量を守りながら長期間の内服を続けることは、感染者の生活の質の低下や経済的負担だけでなく、長期毒性の危険性など様々な問題をひき起こす可能性があります。

現行の抗HIV治療でHIVを駆逐する(治癒させる)ことが事実上困難であるという背景のもと、ARTの開始時期については、それ以上ART開始を遅らせると患者の生命予後に影響を与える時期まで待つ、というのが2000年代前半の流れでした。しかし最近では、HIVの増殖を許しておくことが非AIDS合併症(心血管疾患や肝疾患、腎疾患)のリスクを上昇させると考えられるようになってきたことや、治療薬が以前より進歩したこともあり、ARTの開始は再び早まる傾向にあります。

現在、認可されている抗HIV治療薬の中で、HIV感染を短期間で治癒することが可能な薬は開発されていません。しかし、何年後かの未来においては、治療アプローチが多様化してHIVを完治することができる可能性があります。

iPS細胞技術を応用したHIV抗原に特異的な免疫細胞の再生医療の研究や、特定のRNAと酵素を使ってHIVDNA塩基配列を切断するゲノム編集技術の研究が現在、世界各国ですすめられています。これらの研究は、既存の治療薬のようにHIVウイルスの増殖を抑制するものではなく、HIVウイルスの影響を完全に消滅させるような治療方法になります。現段階では新薬として開発・販売までには至っていませんが、将来、何年後かの未来に治療薬ができるのではないかと期待されています。