全ての病気に共通して言えることですが、『早期発見・早期治療』を行うことはとても大切です。したがって、病気に感染した時には体から発するサインを正確にキャッチする必要があります。

足の付根(鼠径部)などにできるしこりの原因

性行為後に性器や鼠径部(足の付根)周辺の皮下に違和感を覚えたことはありませんか?触ってみるとしこりのようなものがあり、何か重篤な病気ではないかと不安な思いをされた方もいらっしゃると思います。性器や鼠径部にできるしこりの原因は様々です。しこりは皮下にある組織(リンパ節や脂肪、筋肉)が硬くなったものですが、「痛みを感じるもの」と「痛みを全く感じないもの」の2種類が存在します
それでは、足の付根(鼠径部)などにできるしこりにはどんな原因があるのか、解説していきます。

傷口から細菌が入って起こる『リンパ節の炎症・腫れ』

しこりで1番多い原因は、リンパ節の炎症による腫れからくるもので、足の付け根には鼠径リンパ節があります。
鼠径部のしこりは、性感染症が原因で現れることがあります。男性の場合は尿道炎、女性の場合は膣炎です。男女に共通して注意しなくてはならない病気は、近年、東京を中心に急激に感染が拡大している梅毒ですが、梅毒は性感染症の中でも重症感染症の一つとして考えられています。

梅毒の原因菌、感染経路

梅毒の原因菌は、スピロヘータの一種であるトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum) です。梅毒の主な感染経路は、感染している部位と皮膚や粘膜との直接接触であり、具体的には、キス、膣性交、肛門性交(アナルセックス)、口腔性交(オーラルセックス)があげられます。

個人差があるものの、性的接触により約3割の人が感染するといわれるほど非常に感染能力の高い菌です。

梅毒の感染が原因で足の付け根にしこりができる状態を無痛性横痃(むつうせいおうげん)と言います。
梅毒の感染経路で最も多いのが性器周囲のため、鼠径部(そけいぶ)のリンパ節が腫脹することは有名ですが、セックスの多様化によりキスやオーラル・セックスによって咽頭(いんとう:のど)から感染して頸部(けいぶ:首)のリンパ節腫脹が起こることもあります。

梅毒の感染によって鼠径部、または頸部のリンパ節が腫脹する時、多くは左右共に腫脹しますが、片側のみの場合もあるため注意が必要です。

また、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)が性器や咽頭に感染しても横痃(おうげん:リンパ節の腫脹)が起こらないケースがあるため、感染のリスクがある方は積極的に検査を受ける必要があります。
また、痛みがない鼠径部・頸部のリンパ節の腫脹が続くときは、梅毒の感染を疑って検査することをおすすめします。

性感染症以外で足の付根にしこりができる原因は以下の通りです。

表皮に老廃物が溜まってできる『粉瘤(ふんりゅう)』

粉瘤(ふんりゅう)とは、皮膚の表皮に老廃物が溜まってできる良性腫瘍です。性器や鼠径部周辺の皮膚だけでなく、背中や首にできることもあります。
粉瘤は良性腫瘍のため、すぐに健康を害するということはありません。粉瘤の正体は、古い角質などの垢です。最初は小さなしこりですが、中に細菌が入ると炎症を起こし、痛みが現れます。

足の付け根から腸が出てくる『鼠径ヘルニア』

内臓を支える筋膜や筋肉の力が弱くなり、支えきれず鼠径部周辺の腹膜から飛び出してしまうことがあります。脱腸とも呼ばれています。
足の付け根(鼠径部)にはお腹と外をつなぐ筒状の管(鼠径管)があり、男性では睾丸へ行く血管や精管(精子を運ぶ管)が、女性では子宮を支える靱帯(じんたい)が通っています。
年をとってきて筋膜が衰えてくると鼠径管の入り口が緩んできます。お腹に力を入れた時などに筋膜が緩んで出来た入り口の隙間から腹膜が出てくるようになり、次第に袋状(ヘルニア嚢(のう)といいます)に伸びて鼠径管内を通り脱出します。いったんできた袋はなくならず、お腹に力を入れるとヘルニア嚢の中に腸などの組織が出てくるようになります。これを外鼠径ヘルニアといいます。

腹壁には弱い場所があり、年をとってきて筋肉が衰えてくると、ここを直接押し上げるようにして腹膜がそこから袋状に伸びて途中から鼠径管内に脱出します。これを内鼠径ヘルニアといいます。外観は外鼠径ヘルニアと変わりません。鼠径部の下、大腿部(だいたいぶ)の筋肉、筋膜が弱くなって膨らみが発生するヘルニアを大腿ヘルニアといいます。
しこり部分は柔らかく、触っても痛みはありません。また、横になったり手で押すとそのしこりが引っ込んでしまうことがあります。安易な判断で押して引っ込めようとすると腸が戻らなくなり、最悪の場合は血液が流れなくなることにより腸が壊死してしまう可能性もあるため注意が必要です。

初期症状がないため悪化しやすい『悪性リンパ腫』

悪性リンパ腫とは、血液の癌のことを言います。悪性リンパ腫は、がん細胞の形態や性質によって70種類以上に細かく分類されていますが、大きくはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分類されています。
原因は明らかではありませんが、細胞内の遺伝子に変異が加わり、がん遺伝子が活性化することで発症すると考えられています。また、一部にはウイルス感染症が関係することや、免疫不全者に多いことが知られています。症状は足の付け根などリンパ節の多いところに、通常は痛みのないしこりとして現れます。数週から数カ月かけ持続的に増大して縮小せずに病状が進むと、このしこりや腫れは全身に広がり、進行するに従って全身的な症状がみられるようになります。

膝だけではない!軟骨のすり減りから起こる『変形性股関節症』

変形性股関節症では、股関節部分の軟骨がすり減り炎症が起きることでしこりができます。股関節の炎症によって足の付け根のリンパ節がしこりのように硬くなることがあります。
股関節の形の異常や老化が原因で、股関節が徐々に変形していく病気です。老化によって起こったものを「一次性変形性股関節症」と呼びます。日本人の場合、多くは「二次性変形性股関節症」と呼ばれるタイプで、先天性股関節脱臼(だっきゅう)や発育性股関節形成不全(はついくせいけいせいふぜん)が原因で発症します。また、関節リウマチ、大腿骨頭壊死症、大腿骨頚部骨折に続発する変形性股関節症も二次性股関節症といえます。変形性股関節症を発症する方の約80%は女性とされていますが、男性にも起こる病気のため注意が必要です。主な症状としては足の付け根のしこりの他に、股関節が動く範囲が狭くなったり脚の筋力が落ちてくることがあります。症状が悪化すると日常的な痛みや、歩行に障害が生じることもあるため注意が必要です。

以上により、性器周辺や鼠径部周辺に『しこり』ができる原因には、性病科以外に皮膚科、消化器外科、血液内科や整形外科領域の病気が原因となることがあります。原因が性感染症の場合、性行為によって大切な家族や恋人に病気を感染させてしまうことがあるため、症状が現れた時は早期に病院を受診しましょう。