梅毒治療に使用される薬剤

梅毒治療に使用される薬剤は多数の種類があります。

抗生物質は「細菌」と呼ばれる微生物を倒すための薬です。梅毒の原因となるトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)も細菌と呼ばれる微生物であるため、抗生物質を使って治療をしていきます。

ただし、抗生剤には系統が幾つもあり、それぞれの薬剤により適応する細菌が異なります。

抗生剤の全てが梅毒に有効ではないため、状況に合わせて効果性の高い抗生剤を使用していくことになります。

 

ペニシリン

ペニシリン系と呼ばれる抗生物質で、世界で初めて実用化された抗生物質になります。

トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)には細胞壁と呼ばれる防御壁がありますが、これが無くなると菌は生きていけません。

ペニシリンはこの防御壁を作らせるのを阻害する働きを持っています。

1942年に開発されて以後、梅毒に対してペニシリンの治療が最も推奨されています。

細菌の中には、抗生物質を使用すると薬剤に耐性を持つようになる菌が存在します。これには個体差なども考慮されますが、同じ薬剤を使用した場合に効果が弱くなったり、効かなくなったりします。

この場合、別の薬剤で治療していくことになるのですが、梅毒に関しては、現在に至るまでペニシリン耐性を持った報告はされておらず、100%近い効果が期待できます。これがペニシリンを使用する理由の一つです。

ペニシリン製剤にもいくつか種類があります。

①天然ペニシリン

(注射や点滴で使用します。主に海外で使用されます。製品名:ペニシリンGなど)

②半合成ペニシリン

(天然ペニシリンは酸により分解を受けるため、経口投与できるように耐酸性にしたものです。製品名:バイシリンGなど)

③合成ペニシリン

(①や②と違い培養を必要としないペニシリン。広域ペニシリンとも呼ばれ、10種類ほどの薬剤があります。現在の日本では使用が最も多いとされています。製品名:アモキシシリン・サワシリンなど)

海外では①の薬剤を用いますが、日本では①が認可されていないため、梅毒治療は②や③で行ないます。

とくに③の薬剤を用いて治療を行なうことが一般的に多いようです。

【薬剤詳細】

日本性感染症学会で推奨されているアモキシシリンは、サワシリン・パセトシンとしての先発品が同時期(1975年1月)にアステラス製薬、アスペン・ジャパンから発売されています。

通常、呼吸器感染症、皮膚感染症、耳鼻科感染症、尿路感染症、歯性感染症(歯科口腔感染症)など広い範囲の感染症の治療に使用されます。

また、他の薬剤と組み合わせることにより胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃 MALT リンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)・早期胃癌に対する

内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の除菌に用いられます。

服用後約2時間で最高血中濃度に達し、約4時間後に半減期(血中に取り込まれた薬剤の効果が半分になるおおよその時間)を迎えます。

 

塩酸ミノサイクリン

経口投与の内服薬です。テトラサイクリン系と呼ばれる抗生物質です。この抗生物質は、細菌の増殖・生命維持に必要なタンパク質の合成を阻害する事ができます。

簡単な表現にすると、梅毒の菌を増えさせない、栄養を作らせないことにより、菌をどんどんと減らしていく作用があります。

梅毒の感染が認められ、第一選択薬のペニシリンを使用した時、まれにアレルギー反応を起こす方がいらっしゃいます。

そういった時に使用する薬剤としてこの薬剤が推奨されており、塩酸ミノサイクリン(製品名:ミノサイクリン・ミノマイシン)と呼ばれています。

【薬剤詳細】

先発品はファイザーのミノマイシンであり、1981年に発売されています。

梅毒以外にも様々な菌種に効果があり、通常、皮膚科、呼吸器、耳鼻科、泌尿生殖器、歯科領域など広い範囲の感染症の治療に使用されます。

多剤耐性を示すブドウ球菌属、またグラム陽性菌・陰性菌に対しても幅広い抗菌力を示します。

服用後に2~4時間で最高血中濃度に達し、約8時間以降に半減期を迎えます。

 

アセチルスピラマイシン

経口投与の内服薬です。マクロライド系と呼ばれる抗生物質です。このアセチルスピラマイシンもミノサイクリンやドキシサイクリンと同じ働きをもつ薬剤です。

この薬剤は妊娠中の女性でペニシリンアレルギーが出てしまった時の使用が推奨されています。

ミノサイクリン・ドキシサイクリンは妊婦に処方した場合、胎児に対して影響を及ぼす可能性があり、あまり使用は推奨されていません。

 

ここまでに挙げた薬剤が日本性感染症学会によって推奨されている薬剤です。ただし、重篤なアレルギーなどを考慮して、別の薬剤を使用する可能性もあります。

これらの内服薬の投与期間は、第1期梅毒で2〜4週間、第2期梅毒で4〜8週間と、長期に及びます。症状や検査データを元に治療方針が決定されます。

 

JH反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)について

梅毒の治療を開始すると、数時間から数日以内に、発熱や悪寒、筋肉痛、頭痛、リンパ節の腫れなどの症状が現れることがあります。

これはJH反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)というもので、薬の副作用ではありません。

JH反応は、梅毒の菌に近いスピロヘーター属の菌に対して治療を行う時にも出現する可能性があります。

具体的には回帰熱(かいきねつ)、ライム病、レプトスピラ症といった、ペット、家畜などの動物、虫を介して感染する病気の治療を行う時にも共通の症状が出る可能性があります。

抗生剤で菌が破壊された時に血液中に散布される毒素の影響だと考えられていますが、症状は一時的なものです。

一般的には、内服後、数時間から2日の間に、39度近い発熱や全身の倦怠感、頭痛などの症状が出ると言われています。また、そういう意味では、内服は仕事がお休みの時に始めるのがよいでしょう。

注意が必要なのは、抗生剤の副作用をJH反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)と間違えてしまうことです。

体質的に治療で使用する抗生剤にアレルギーが出た場合、薬を飲み続けるかぎり、症状は悪化していくので、判断に困るときは速やかに医師に相談することが大切です。

自己判断で薬の量を減らしたりせず、医師が治療を終了とするまでは、処方された薬を確実に飲むようにしましょう。