梅毒の原因菌

梅毒の原因菌であるトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)に感染した時、様々な皮膚症状が現れることがありますが、多くの場合、痛みや痒みを伴わないことが多いとされています。

しかし、痛みや痒みがある場合でも梅毒の症状の可能性があるため、自覚症状の有無で自己判断することは大変危険です。

梅毒に感染しているか否かについては血液検査をおこなわないと診断することができません。

体の異常に気づき、病院を受診するためにも、正確な医学的知識を身につけていることはとても大切です。

梅毒感染1期から2期にかけて現れる可能性のある皮膚症状について詳しく説明したいと思います。

 

硬性下疳(こうせいげかん)

初期硬結(しょきこうけつ)の一部で、皮膚が傷になり潰瘍(かいよう)ができたように見えることがあります。これを硬性下疳(こうせいげかん)といいます。

硬性下疳(こうせいげかん)の特徴として、発生しやすい場所は、初期硬結と同じく、亀頭や陰茎、性器周辺の皮膚にできることが一般的です。

最も多くできる場所は、亀頭と陰茎の間の部分(冠状溝:かんじょうこう)です。

その他、感染者とのキスや性器を舐めるような接触があった場合、口の中の粘膜や咽頭周辺(いんとうしゅうへん)の粘膜にできることも稀にあります。

 

硬性下疳(こうせいげかん)は、症状の印象から、痛みや痒みが強いような印象がありますが、そのほとんどは痛みや痒みなどの自覚症状は伴いません。

しかし、皮膚がびらん・潰瘍を形成するため、皮膚のバリア機能が低下し、一般細菌やカンジダなどの真菌に重複感染した場合、痛みや痒みを伴うことがあります。

硬性下疳(こうせいげかん)の症状はヘルペスや一般細菌に感染した時のような皮膚症状なので、視診だけで病気を特定することは皮膚科の専門医でも容易ではありません。

また、時間の経過とともに症状が消失してしまうため、症状に気づかれたとしても、自然治癒したと誤認してしまう方が非常に多いのも問題となっています。

 

近年、性行為の多様化により、陰部周辺だけでなく、口腔粘膜や咽頭周囲の粘膜にも症状が現れる方が増えています。また、初期硬結(しょきこうけつ)の症状がなく、突然、硬性下疳(こうせいげかん)の症状が出現することもあるので、『しこりがないから梅毒ではない。』と考えることは大変危険です。

症状の発生頻度は、感染者全ての85%程度で発生すると言われています。

その他、硬性下疳(こうせいげかん)の症状に類似した症状として軟性下疳(なんせいげかん)という病気があります。

軟性下疳は、ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi)と呼ばれる細菌が原因となる性感染症です。

硬性下疳(こうせいげかん)に比べ、しこりが柔らかいことと、痛みが強い壊疽性潰瘍(えそせいかいよう)と鼠径部(そけいぶ)のリンパ節の化膿性炎症(かのうせいえんしょう)を伴うことが最大の特徴です。

日本国内での発症例は少なく、特に東南アジアやアフリカなどの熱帯・亜熱帯地域の感染者が多いとされています。

 

梅毒性バラ疹(ばいどくせいばらしん)

トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)に感染後、約3ヶ月から3年にかけて梅毒が原因で発症する発疹です。

文献によっては斑状梅毒疹(はんじょうばいどくしん)とも言われます。

好発部位としては、体幹を中心に顔面や手足などにもみられる、爪くらいの面積の斑点です。

特に手のひらや足の裏の皮膚にも皮疹(ひしん)が見られるのが特徴的な所見とされています。

梅毒性バラ疹は淡紅色をしており、あまり目立ちません。中期症状としては比較的早い段階から見られます。

痛みや痒みなどの自覚症状が無く、数週間ほどで消えるため、見過ごされやすいので注意が必要です。

発生頻度は、全体の約26%の方に症状が出るといわれています。

体にこのような皮疹が出た時、薬疹やジベルばら色粃糠疹(ジベルばらいろひこうしん)といった梅毒とは関係ない理由で同様な症状がでるため、視診だけで病気を判断せず、検査を受けることが大切だとされています。

薬疹(やくしん)とは、言葉の通り体内に摂取された薬剤,あるいはその代謝産物によって,皮膚や粘膜に皮疹を起こすことです。

ジベルばら色粃糠疹(ジベルばらいろひこうしん)とは、全身あるいは体幹(お腹や背中)を中心に紅斑(赤い斑点)がたくさんできる病気です。多発性の紅斑の体幹における配列模様がクリスマスツリー様に見えるのが特徴とされています。

梅毒性バラ疹と同様に発熱や倦怠感などの全身症状はほとんどなく、皮膚病に有りがちな痒みもほとんどないのがもう一つの特徴です。

この病気の原因は何らかのウイルス感染による二次的な反応と考えられていますが、原因は明らかにされていません。この病気自体が伝染することはありません。

また、ジベルばら色粃糠疹(ジベルばらいろひこうしん)は、ほとんどの場合1~2ヶ月で痕を残さずに自然治癒するため、梅毒性バラ疹との違いは見た目では困難とされています。

いずれにせよ、皮疹が現れた時は積極的に病院を受診することが大切です。

 

梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん)

梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん)は、第2期梅毒の代表的な症状のひとつです。

乾癬(かんせん)という病気自体は、梅毒が原因で必ず起こる病気でなく、多くの場合は遺伝的素因の他に様々な環境因子(不規則な生活や食事、ストレス、肥満、特殊な薬剤など)が加わると発症すると言われている病気です。

特徴的な症状として、銀白色の鱗屑(りんせつ:皮膚の粉)をともない境界明瞭な盛り上がった紅斑が皮膚に現れますが、梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん)の場合、症状の好発部位は手掌・足底と言った、通常の乾癬の好発部位とは異なった場所に現れるのが特徴的です。症状としては浸潤を伴う鱗屑性紅斑(りんせつせいこうはん)なので乾癬に類似していますが、梅毒性乾癬の場合、症状の原因は梅毒の原因菌であるトリポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)の増殖によるものです。

乾癬様の症状が現れるため、皮膚が乾燥するため痒みを伴うこともあります。皮膚の鱗屑を伴い、皮膚のバリア機能が低下し、一般細菌やカンジダなどの真菌に重複感染した場合、痛みや痒みを伴うことがあります。

梅毒に感染した時の発生頻度は約20%で発症すると言われています。

 

扁平コンジローマ(へんぺいこんじろーま)

扁平コンジローマ(へんぺいコンジローマ)は第2期梅毒の臨床症状の一つです。症状の好発部位は陰部や肛門周囲の皮膚に現れると言われています。ごく稀に腋窩(えきか:脇の下)や乳房下部(にゅうぼうかぶ)に現れることもあります。共通した特徴として、皮膚同士が摩擦(まさつ)し易い箇所に好発します。特徴的な症状として、浸潤した紅色の扁平隆起性(へんぺいりゅうきせい)の丘疹(きゅうしん)です。経過と共にひとつひとつの丘疹が融合し、台形状の結節(けっせつ)に変化するのも特徴的な経過です。

丘疹が生じている場所には大量のトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)が存在するため、症状が表れている場所に他者の粘膜や傷の接触がすると、感染させる可能性が高まるため注意が必要です。症状の出現頻度は約5%程度だと言われています。

ほとんどの場合、扁平コンジローマ周辺の皮膚には痛みや痒みは生じませんが、皮膚のバリア機能の低下により細菌や真菌の二次感染で自覚症状を伴うこともあります。

類似した症状を起こす病気として尖圭コンジローマ(せんけいこんじろーま)とボーエン様丘疹症(ボーエンようきゅうしんしょう)があります。

尖圭コンジローマの原因は低リスク型HPV(ヒト・パピローマウイルス)と呼ばれ性行為で感染するウイルスが原因です。高リスク型・低リスク型いずれのHPVに感染したとしても、ほとんどは一過性の感染で、免疫力により自然に排除されるといわれています。ただし、低リスク型HPVに感染した場合、尖圭コンジローマの原因になります。低リスク型HPVに持続感染することによって、3週間~8ヶ月(平均2.8ヶ月)で性器や尿道・膣・肛門などに鶏のトサカあるいはカリフラワー状のイボ(尖圭コンジローマ)が現れます。一般的にイボに痛みはありませんが、人により軽度の痒みが出現することがあります。

ボーエン様丘疹症(ボーエンようきゅうしんしょう)とは、高リスク型HPVの感染によるもので、外陰部に多発する黒褐色の丘疹および局面です。自然消退もありますが、稀に皮膚癌に移行するため注意が必要です。尖圭コンジローマ、ボーエン様丘疹症(ボーエンようきゅうしんしょう)共に扁平コンジローマの症状に類似しているため、視診のみで鑑別することは困難です。症状がある時は、性感染症内科(性病科)や皮膚科を積極的に受診することをお薦めします。

 

膿疱性梅毒疹(のうほうせいばいどくしん)

膿疱性梅毒疹の典型的な症状は、顔面や体幹や四肢などの皮膚に無数の小膿疱(しょうのうほう:膿が溜まったできもの)を形成します。第2期梅毒疹のなかでも非常に稀な皮膚症状です。顕性梅毒(けんせいばいどく:症状が認められる梅毒)のうち約3%程度の方に見られる症状です。痒みや痛みなどの皮膚症状だけでなく、発熱や全身の疲労感などの全身症状も随伴することも多いとされています。膿疱は時間の経過とともに潰れたり、痂皮化(かひか:かさぶたのようになること)したりします。

膿疱の膿には大量のトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)が存在するため、性行為だけでなく、他者の粘膜や傷に接触することにより感染する危険性があるため、日常生活においても注意が必要とされます。使用したタオルや寝具などの共有は極力避けたほうが賢明でしょう。

また、膿疱性梅毒疹を呈する方に見られる傾向として、極端に栄養状態や免疫状態が不良の方に発症することが多いとされています。HIVなどの免疫力を下げるような感染症や悪性新生物(あくせいしんせいぶつ:癌など)などの病気など罹患している可能性もあるため、梅毒の感染だけでなく他の病気の検査や治療を行うことが大切です。

梅毒性白斑(ばいどくせいはくはん)

日本国内では毎年、約100万人近い方が発症する白斑(尋常性白斑:じんじょうせいはくはん)と言う皮膚疾患があります。症状としては、体幹や顔面、頭皮や四肢末端部までの皮膚の一部が脱色し、白く見えるような状態に変化します。原因は明らかにされていませんが、遺伝や自己免疫疾患、環境要因が関係されているといわれています。

皮膚が白く見える原因は皮膚の基底層に分布するメラノサイト(色素細胞)が何らかの原因で減少・消失するからです。メラノサイト(色素細胞)は紫外線から皮膚を守るためにメラニン色素を産生しますが、その減少、消失により皮膚の色が白く抜けていきます。ほとんどの方の場合、痛みや痒みを伴うことはありません。

梅毒に感染した時に、この白斑(尋常性白斑)に似た症状が現れることがあります。症状は体幹や頸部・頭部や四肢の皮膚の一部が脱色し、白く見える状態になります。顕性梅毒(症状が現れる梅毒)の約3%程度の確率で発症するといわれています。

梅毒性白斑を発症した時、高い確率で梅毒性脱毛を併発するともいわれています。白斑や脱毛の症状だけでは、梅毒と鑑別することは困難なため、症状が現れたときには診察・検査を行い、原因に対して最も有効な治療を受けることが大切です。

 

梅毒性爪炎・爪囲炎(ばいどくせいそうえん・そういえん)

爪炎・爪囲炎とは、爪(つめ)の内部や周囲の皮膚が赤く腫れて炎症を起こした状態をいいます。原因としては、細菌や真菌の感染や、感染とは無関係の湿疹によって起こることもあります。いずれも爪の内部や周囲の皮膚が赤く腫れ、爪と皮膚の間にすきまができて、圧迫すると痛みがあり多少の膿が出ることもあります。稀に潰瘍を形成することもあります。

梅毒2期においても、一般の爪炎・爪囲炎を起こすことがあります。炎症の原因は梅毒の原因菌であるトレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)のため、膿や傷自体が他者の粘膜や傷に接触すると性行為以外でも感染する可能性があるため注意が必要です。症状だけでは梅毒の感染を特定することが困難なため、症状が現れた時には積極的に診察・検査を受けて、原因に対して最も有効な治療を行うことが大切です。